【疱瘡神】
【疱瘡神】
疱瘡は疫病のなかでももっとも恐ろしものの一つとされており、古語ではワンズカサ(碗豆瘡)、モカサ(裳瘡)といわれていた。
天平七年(七三五)の流行を初見として幾度となく流行をみている。そのため神仏に祈願し、幣を神に奉じ諸寺をして読経をさせたりして霊り、延喜一五年(九一五)の庖瘡神流行に際しては鬼気祭りを催している。近世期には、疱瘡が新羅国より伝わってきたものなので、三韓降伏の神である住吉大明神を祀れば平癒するとか、『叢柱偶記』に「本邦患レ痘家、必祭萢瘡神夫妻二位於堂'、俗謂二之裳神一」とあるように庖瘡の神を祀ることも行われた。民間に伝承されてきた疱瘡に関する習俗にも各種のものが認められることはいうまでもないが、なかでも疱瘡神を送るという形式が広く行われている。
たとえば、兵庫県多紀郡篠山町では疱瘡の予防接種をした七日ほど後に、二つの桟俵に笹の葉ひとつかみを置き、水引・赤飯とともに節供に祀った古人形を付けて道端に送るという。大阪地方では赤飯の握り飯をつくり、それを白木の膳あるいは桟俵に載せ赤い幣吊を立て蓮根などを供えて道の辻に送りだすという。また千葉県印旛郡地方では明治一〇年ころまで疱瘡流行に際し子女が万灯を肩に鼓を打ちながら村を囃して歩くことが行われたと伝え、大阪地方でも藁人形を作り鉦・太鼓で村中を練り歩き最後に川に流すという。こうした疱瘡の神を送る形式のほか、門口などに疱瘡神を祀る場合、疱瘡を避けるために籠りをする例、草木鳥獣虫などを用いて疱瘡に対処するなど各種の方法が用いられている。(宮本)