102民間療法とおまじない

102民間療法とおまじない

 昔はお医者さんの数も少く、それに加えて生活に余裕がなかったので、滅多に医者にかかる事はありませんでした。殆ど古くから伝えられている療法や、おまじないに頼ることが多かったようです。
 そのなかには医学的に理にかなったものもありますが、逆療法も少くありません。またおまじないには、災禍を免れたいとの願いや、健康への祈りがこめられています。

○原家家伝耳んだれのくすり

 桑の木についた天然の蚕(かいこ)の繭(まゆ)と、陰干しにした野菊の花をよくまぜ合わせてまるめる。これを和紙に包んで水に浸し、いろりにくべてこんがりと焼いて黒い粉にする。粉はどんぶりに入れて仏様に供えておき、耳んだれになったら、絹の布で粉を包んでごま油につけ、耳の中にたらしこむ。


○ヤンメ(はやり目、トラホーム)

・蔵敷のみたけ様の池の湧水を頂いてきて目を洗うと眼病がなおる。
・円乗院の西、狭山のがみねに、小さなお堂があって、薬師如来が祀られていた。二合びんにお茶を入れて薬師さまに供え、そのお茶で目を洗う。

○きりぎず

・きりきずには、まむしを漬けた焼酎(しょうちゅう)をつけるとよい。
・生きたむかでを入れた食用油をきずにつける。むかでが苦しまぎれに体から出す油がきずに効く。

○まんじゅう虫の指サック

 指に怪我をした時には、まんじゅう虫(かぶと虫の幼虫)の頭を切りおとして内臓を出し、皮を指にはめる。冷いので熱がとれて痛みがやわらぐ。

○怪我

・径我をして出血した時は、きものの挟にたまった"たもとくそ"でおさえて止血する。
・子供が怪我をすると親は「泥でもぬっておけ」という。赤土には殺菌作用がある。

○虫さされ

・朝顔の葉をもんでつけるとかゆみがとれる。
・茗荷の葉でこする。

○やけど

・やけどには米の油がよく効く。茶碗に和紙をはって、上に米糠(こめぬか)をのせ、糠に火をつけると和紙で漉されて黄色い糠油が、ほんの少しつつ滴り落ちる。これをつける。
・時には豚の脂で間に合わせる事もある。
・十五、六センチの大きな赤腹のむかでをごま油に漬けておき、やけどの傷につける。

○打身・骨折

 くちなしの実を酢(す)で煎(せん)じて、痛いところに湿布をする。

○咳止め

 ほととぎすの羽毛をぬいて内臓を取除き、塩漬にする。ほととぎすは脂肪分が多いので、肉をむしって熱湯をかけると油が採れる。この油を飲むと、結核の咳止めに効果がある。のどけ(ジフテリア)にもよく効く。

○おなかのくすり

 鮎のはらわたの塩漬"うるか"がよく効く。まっ黒で黄色い油が浮いているので、よくかきまぜて飲む。猛烈な苦味があって飲みにくいが効目がはやい。

○のどの痛み

 白南天(しろなんてん)の実を三粒ぐらい、そのまま飲むと痛みがとれる。

○馬の効用

・馬肉には熱をとる効果があるので、肺炎にかかった時など、胸に馬肉をはって湿布をする。
・馬肉を食べると体が暖まるので、風邪がなおる。
・やけどに馬の脂を塗る。
・骨を削って煎じて飲むと、中気にに効く。
・馬の尿には解熱作用があるので、発熱した時に飲むと熱がさがる。

○脚気(かっけ)

・麦めしを食べるとなおる。
・火鉢の灰をとって紙の上に敷き、灰の上に足型をつける。中指の第一関節と第二関節の間の長さを測ってツボをきめ、灰の上にもぐさを置いて灸(きゅう)をすえる。使った灰はうしろの方に投げ捨て、ふり返ってはいけない。

○歯痛

・歯が痛い時は、桃の小梅をよだれが出るまで噛んでいる。
・小いも(里いも)とうどん粉をすって紙につけ、ホッペタにはっておくと痛みがひく。

○のどけ(ジフテリア)
○口むき(百日咳)

・米びつの下に「百日咳」と紙に書いて置くと百日咳にかからない。
・白南天の木で作ったひょうたん型のお守りを、糸で結んで子供の帯に下げておく。ピヨタン(ひょうたん)をつけていると、口むきやのどけにかからない。

○虫きり(虫封じ)

 疳(かん)の強い子は、お寺に連れて行つてか「虫きり」をしてもらう。お経をあげたのち手の指を綿のようなもので拭いたり「爪の間から白い虫が出る」と言って、それを取除くしぐさをして虫を封じてくれる。

○ふみぬき

 足に釘をさした時は、きず口を金槌でたたくと傷がしまって痛みがとれる。針を刺した時も同じで、刺したところを鋏(はさみ)でたたく。

○今熊参り

 子供が育たないと、なにかの崇(たたり)りではなかろうかというので、五日市の今熊神社にお詣りをして、「しょうげ」を抜いてもらう。祈疇をしてもらった人は、頂いたお札を秋川に投げこんで、うしろをふり返らずに帰ってくる。

○じじっけ

 子供が三歳になるまでは、髪を切る時ぶんのくぼ(ぼんのくぼ)に少しだけ毛を切り残しておく。転んだ時に神様が、そこをつまんで起してくれる。

○あぶらげ(背守り)

 健康に育つようにと、一ツ身の背紋のとろに無地の小布をつける。または糸でししゅうをする(背だて)

○願いごと

 神社で願いごとをした時は、おみくじを口に入れて噛んで、柱や天井に向かってふっかけると願いが叶う。

○ものもらい

・ものもらいができたら、井戸に味噌こしを半分見せて「なおしてくれたら全部見せる」と言う。
・隣の塩をぬすんでなめる。
・人に物をもらえばよい。

○目の中のゴミサ

 目の中にゴミやまくなぎ(ぬか蛾(が)の一種)が目に入ってしまった時「じいちゃん、ばあちゃん、おれの目ん中にゴミが入ったから、金の熊手で出してくらっしゃい、チチンブイプイ」という。

○魚(うお)の目

 魚の目のところに筆で「鬼」と書いて拝む。

○やけど

 大晦日(おおみそか)の晩、炊き上った最初のご飯をいろりの火の中に入れると、次の年はやけどをしない。

○あつけ(日射病)

・蓑(みの)を着て、ひのきだまをかぶり、上から水をかける。
・きゅうりの皮をむいて、うすく輪切りにし、足の裏にはる。

○狐つき

 狐つき(気の狂った人)には、しきび(あせぼに似た木)の葉とあぶらげを一緒に煮て食べさせる。

○しらくも

 生きたどじょうを焼酎(しょうちゅう)に漬け、皮のぬるぬるを塗ると治る。治るまで毎日一匹つつ焼酎に漬けては塗るのを繰返す。

○胃

 まむしを串に刺していろりで焼き、かもいに刺して置いて胃の悪い時に噛る。

○土荒神(どこうじん)さま

 土の中にいる神さま。地面にくいなどを打って神さまを傷つけると腹を立てるから、丸太を埋めたり小さな植木をうえる時でも、「ここをいじりますからどいて下さい」。といって波の花(塩)できよめる。

○狐

 茶畑などへ行って狐の姿を見ると、すぐ石をひっくり返す。狐に意趣返しをされないうちに、こちらが石返しをするのだという。

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