15仁王さまと名物だんご
はしかがはやりだすと親たちは、子供を連れて山口観音へ参拝に出かけます。仁王様の股をくぐらせると、はしかを除けると言われていました。当時、はしかは、子供にとって時に命に関わることもある恐しい病気でした。
山口観音では、お坊さんが仁王門のしとみに棒を立てて開けてくれます。右側の阿形(あぎょう)の仁王様でした。赤ちゃんは坊さんが抱いてくぐらせてくれますが、物心ついてくるとこわい顔の仁王様は、はしかより怖(おそろ)しくてなかなかくぐれません。そばの店で焼く名物のおだんごが香ばしい匂いを漂(ただ)よわせています。親たちはこれを種にしていっしょうけんめい励まします。坊さんも力を貸してくれるのですが、泣き声は大きくなるばかりです。仕方なく着ているチャンチャンコ等をぬがせてくぐらせることもありました。日傘を身代りにした話もあります。
昭和初期、お寺へのお礼は十銭位でした。仁王様のおふだも売り出されていました。門口に貼るとはしかや盗難除けのご利益がありました。たとえはしかにかかっても、おふだにお灯明(とうみょう)を上げて拝むと軽くすむと言われていました。
仁王門の前の左側の家は、雨店(あまだな)といわれ、今から三代前の人が雨宿りを兼ねただんご屋を開いていましりんた。ここの焼だんごは有名で参拝客のいいおみやげになりました。六十年余り前に五厘(りん)だったおだんごは、戦前には一本二銭でした。雨店はまた、武蔵村山市や東大和市の方から今の貯水池の山を越えて、所沢の市へ行く人が必ず腰をおろす休憩所でもありました。(p34~35)