神明社の大欅

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タイトル (Title)

神明社の大欅

詳細 (Description)

 かって、明治39年(1906)まで、この地に神明社がありました。
神明社跡地 現・東大和市消防団第二分団詰所
右方向志木街道 左上方向 狭山神社を経て狭山丘陵へ
神明社は移転する前までは鬱蒼とした森に包まれていました。幹周り4㍍ほどの大きなヒイラギと欅が神木でした。近くに「森下」(もりした)の屋号の家がありますから、遠くからも目印になる位、立派だったことが偲ばれます。この神木についての伝承です。
幕府御用船に大欅が伐られた
村人達は大欅を大事にしていました。ところが、幕末の嘉永7年(1854)のことです。幕府から、神木の欅を幕府の御用船の船材に使うので売り渡すようにとの伝達が来ました。丁度、前年の嘉永6年(1853)、ペリーが黒船を連ねて羽田沖に来ます。幕府に開国・通商を求めて大騒動の時です。
幕府は蒸気船を造って対抗することになりました。その用材にと南八丁堀の御用商人・角兵衛が神木の欅を買いに来ました。村人達は断りました。と云うのは、40年ほど前に、近くの円乗院(神明社の別当)が本堂を建て替えることになり、その用材に欅を切ることにしました。住職が「読経して神慮を慰め、無心無垢の小児に籤を引かせて、吉凶を判断した」時、凶と出たため、伐る事を止めた経過があったからです。
村人達は、時の代官・江川太郎左衛門に伐らないように「赦免」を申し出ました。ところが、江川代官は幕府の海防に携わって、東京湾に台場を造って備えようとしています。「幕府の用材」だから、相当の代価で売り渡すようにとの指令が来ました。やむなく、村人達は角兵衛の手代・久米川村の升五郎に25両で売り渡しました。それからが大変です。
あとが大変
欅を伐ったあと、次々と変な事が起こります。地元の歴史探索家である杉本林志が『狭山之栞』に次のように記します。
・村内○○は根の切屑を貰ひ焚物に用ひしところ、隠宅焼失す。其後、盗賊、質藏を切り破り財物を奪ひ且つ火を掛けたり。
・久米川村升五郎は大熱病を煩ひしが神罰なるを悟り日参して神慮を慰ると云へども、ついに妻を失ふに至る。
・当時の村用掛○○外役人一同はじめ氏子一同も大に驚き、右売却金廿五両をもつて廿五座の神樂を奏して神に詫びしが、
かなはず、疫病流行し村内交々と煩ひ、五ケ年目に漸く退散す。
・あまりの不思議の恐しさに、境内の落葉、下草、枯枝など堆かくなるも更にとる人なし。
まして他の大木は立ち枯れのまま残れど手を着くる者なし。」(『狭山之栞』)
と云う状況になりました。
石坂と鳥居を供養
村人達はさらに供養を続けました。当時の名主であった杉本家の文書は次のように書き残しています。
・安政二卯年(1855)三月四日、南谷神明宮石坂並びに石の鳥居供養、
右は去年中欅代金にて立てる
・欅三尺六寸角、長さ四間、根迄掘り出し俣木は御用船に用いる由、深川栖原屋角兵衛へ売り渡す
代金二十五両也 (杉本文書上巻 p21)
このように、欅を伐った翌年の安政2年(1855)に、後ヶ谷村が神明社の石坂を整備し、石の鳥居を奉納して供養した事を記録しています。
その時、石灯籠が供養されたようです。現在狭山神社の参道に「神明宮」と刻まれた一対の石灯籠が捧げられています。
残された石灯籠
狭山神社の正面石段の上、左右に柵で保護された石灯籠がその灯籠です。次のように刻まれています。
左側灯籠には
正面 神明宮 後谷邑(後ヶ谷村)
裏側 願主 当村 忠右衛門
右横 嘉永六(1853)癸丑(みずのとうし)年九月吉日
台石正面 関田氏
台石裏側 石工 久米川邑 藤堂有信
右側灯籠には
正面 神明宮
裏側 嘉永七(1854)甲寅(きのえとら)四月吉日
台石裏側 久米川邑 石工 藤堂有信
石灯籠は2年にわたって捧げられています。願主は当時の関係者だったのでしょう。
蔵敷の農兵訓練場とともに、幕末を知ることのできる貴重な石造物です。
旧道がたどれる
紹介した伝承に話に出てくる江戸時代から幕末にかけての神明社、狭山神社(天狗大明神)、円乗院の位置関係は次の図の通りです。
現在の道路図に置き換えると次のようになります。
現・志木街道部分は大正8年(1919)に屈曲部を解消するために造られました。神明社跡を囲むように旧道が走っており、江戸時代の「村山道」の姿を辿る事が出来ます。
旧道側から見た神明社跡地の全景です。右端の建物の裏に神明社跡地の碑が建てられています。

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Citation

“神明社の大欅,” 東大和デジタルアーカイブ, accessed 2024年11月24日, https://higashiyamatoarchive.net/omeka/index.php/items/show/1619.